本研究は、実質的に平成2年度科学研究費補助金重点領域研究「高度技術社会のパ-スペクティブ」公募研究23「発展途上国における技術移転問題へのソフト系科学技術による経営工学的接近」の継続研究である。 本年は、(1)発展途上国への技術援助に関してしばしば深刻な問題になっている、発展途上国の経済発展と自然環境(特に、森林資源など)保護との対立(コンフリクト)を解析するために、(2)ソフトシステムズアプロ-チにおける新しい分析枠組み(学習ゲ-ム分析)を考察し、(3)さらにこれを実際にインドネシアにおける具体的なケ-スを記述するために適用し、併せて理論の有効性の検証も行うことを目的とした。 複数の人間が関与し、共通の目標を設定したり定量的な解析が困難な問題状況では、それに関与する人々が多様で、生じる結果に対してさまざまな選好を持っているのが普通で、それに関与する人々は試行錯誤的に行為を繰り返しその過程で状況に関する知識を増やすという学習行動が不可欠となる。このような行動を解析するための一つの枠組みとして学習ゲ-ム分析を提案した。 学習ゲ-ム分析は、ハイパ-ゲ-ム分析を基礎に問題状況の理解の変化といったダイナミックな過程をも視野にいれた新しい分析枠組みである。そして、学習ゲ-ム分析は各プレ-ヤ-間に相互作用のない独立な状況認識から始まって、各プレ-ヤ-が次第に問題状況を学習し、互いに理解し相互認識を形成し、ついには通常のゲ-ム状況を共通に認識するようになる一連の過程を記述する。さらに、学習ゲ-ム分析は、プロセスの各ステ-ジでどのような解(合理性)の概念が用いられそれがどのように変化してゆくかをも記述する。 以上の学習ゲ-ム分析の枠組みを用いて、インドネシアにおける自然環境保護と開発援助の問題を考察した。すなわち、財政的技術的援助を受ける立場の国(開発途上国)とそれを提供する能力のある(先進国)の選好を想定し、学習ゲ-ム分析の枠組みを用いて、その意識のズレとその解釈およびその変化を明らかにした。
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