本研究の目的は人類進化の観点から、基本的生業を異にする民族の間に見いだされる生物学的差異を明らかにすることである。対象に選んだのは、現在のアジアの民族、過去の縄文・弥生、そして、東南アジアの人々である。 まず、民族間での極端な偏在性を示すHTLVの検索をおこなった。その結果、モルゴルでは、1000余名中0名、ネパ-ルでは400名中0名であった。これらのデ-タはいわゆる新しいタイプのモンゴロイドではHTLVはendemicでないとの説を示持した。一方、台湾の高山族では680名中1名のキャリア-を見いだした。台湾は、旧来より日本との関係が深いため、その由来に関しては慎重な検討が必要である。そこで、本例についてはそのウイルスゲノムの解析から由来を考察することとし、PCR法を用いた分析用にHTLVキャリア-のDNAを抽出した。 生きた細胞を永久に増殖させ遺伝情報を将来に残すための、細胞の株化法の改良をおこない遠隔地における収集試料の一部利用を可能とした。実際、細胞株化をおこない、台湾高山族、マレ-セマンを新たに加え表に示すような「民族の細胞バンク」を創りつつある。 本年度は過去に発掘され計測等の済んだ西北九州を中心とした弥生時代出土人骨よりDNAを抽出、核およびミトコンドリアDNAの分析をおこなった。分折をおこなった核DNAの領域は、人類集団にて非常に高頻度の多型を示す直列型単純反復配列の複数の常染色休上に存在する遺伝子座を選んだ。一方、核のDNA分析だけからでは個体の母系関係の同定は困難であるので、母系遺伝する(母方からのDNAのみが子に受け継がれる)と考えられているミトコンドリアDNAの分析もあわせておこなった。現在、多数の個体試料で分析をすすめていると同時に、分析する核DNAの遺伝子座の数を増やしている。
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