[Cu(dmphen)_2]^+錯体はMLCT状態からリン光を発する。最低の光励起状態がCu(I)からdmphenへの電荷移動状態であれば、光吸収によって錯体の構造の変化が期待される。 オパ-ルグラス法を用いて測定した[Cu(dmphen)_2]ClO_4と[Cu(phen)_2]^-ClO_4の固体の吸収スペクトルを比較すると、[Cu(phen)_2]ClO_4では最低のMLCT吸収帯が二本に分裂している。また[Cu(dmphen)_2]C10_4錯体は発光するが、[Cu(phen)_2]C10_4錯体は発光しない。X線構造解析によれば、[Cu(dmphen)_2]C10_4の二つのdmphenがなす角(二面角)は82゚であり、[Cu(phen)_2]C10_4のときは49.9゚である。これらの二つの錯体の固体の吸収スペクトル及び発光の性質は二面角の違いによることが明らかになった。 DVーXα分子軌道法を用いてモデル錯体[Cu(αージイミン)_2]^+のエネルギ-準位を二つのジイミンのなす角を変えて計算した。D_<2d>対称(二面角90゚)のときHOMOは二重に縮重したdπ軌道であり、LUMOは二重に縮重した配位子π^*軌道である。二面角が90゚から0゚に変化するにつれて、HOMOは縮重が解け二つのd軌道に分裂する。また二面角が90゚から減少するにつれて、禁制遷移状態が最低励起状態になる。[Cu(αージイミン)_2]^+の最低励起状態はMLCT状態であり、1Ob_2(Cud_<XZ>)から11b_3(ジイミンπ^*)への許容電荷移動遷移は配位子の短軸方向を向いており、また二面角の減少につれて赤色シフトする。これらの結果は固体の吸収スペクトル及び発光の性質をよく説明することができる。溶液中での発光の温度依存性からも光吸収による錯体の変形が示唆される結果を得た。
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