ソフトウェアの分散開発のような知的協同作業を計算機で支援する環境について、本研究ではそのあるべき姿を確立すべく、従来なされてきたような計算機構成、ネットワ-ク形態、プログラミング環境などハ-ドウェアやシステムソフトウェアに注目する下からのモデル化ではなく、人間の知的協同作業の抽象化という上からのモデル化を目指している。具体的には、我々がすでに提案している協調処理モデル、すなわち集団における自律的主体の協調動作や相互作用を抽象化する基本的枠組を提供するモデルに基づいてこれを実現する。研究実施計画に従って研究を進め、本年度は下記のような成果を得た。 1.知的協同作業の分析:自律性を持つ主体の集団が全体として一つの目的に向けて作業を行う場合の協同作業について分析を行った。具体的な項目は、主体間の相互干渉、利害対立の調停や合意の達成などである。 2.計算機上でのモデル化:上の分析結果に基づいて、知的協同作業における協調動作や相互作用のモデルを、すでに処理系を作成している協調処理言語の上に実現して評価した。具体的には、利害が一致する状況での協調、相補的な状況での協調、利害対立の解消と二者間の合意の達成などである。 3.言語処理系の拡充と改良:上の成果を反映される形で、知的協同作業の支援に必要な概念や機構を現在の協調処理言語処理系に取り込み、その拡充と改良を行った。また自己言及機構と永続性機構の導入に成功し、さらにはLispからCに移行することで処理系の大幅な高速化を実現した。 次年度は本年度の成果を受けて、知的協同作業の抽象化に基づくソフトウェア分散開発環境のプロトタイプを我々の協調処理言語の上に試作して実験と評価を行っていく予定である。
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