アグリコバンコマイシ及び合成した大環状オリゴペプチドのNーアセチル-D-アラニル-D-アラニン及び俣ーアセチル-L-アラニル-Lーアラニンに対する分子認識能をNMRスペクトルを用いて検討した.その結果、アグリコバンコマイシンの場合には、D.H.Williumsらと同様にNーアセチル-DーアラニルーDーアラニンと強固な水素結合を形成し、関連したNHおよび周辺の官能基のプロトンシグナルは大きくブロ-ドニングを起した。他方、NーアセチルーLーアラニルーLーアラニンに対しては、 ^1HNMRスペクトルから見る限り、アグリコバンコマイシンとの相互作用は認められなかった.また、バンコマイシンの活性部位に相当する合成大環状オリゴペプチドでは、DーおよびLー系列のNーアセチルーアラニルーアラニンの両者とも水素結合による相互作用は観測されなかった.この点については、天然オリゴペプチドの場合には、A環部のアミド結合のNHとNーアセチルーDーアラニルーDーアラニンのNーアセチル基のカルボニル酸素との間に水素結合が存在するが、合成品の場合には欠けている.しかし、以下に示すように、合成オリゴペプチドの抗菌活性はアグリコバンコマイシンと同じ程度であり、興味深い. 筆者らは、40数種のグラム陽性および陰性の苗株を用いて抗菌試験を行った。この結果、バンコマイシンの糖部分を除去したアグリコバンコマイシンは前者と比較してグラム陽性菌に対して500倍も活性が低下するが、グラム陰性菌に対しては、バンコマイシンよりも高い活性を示した.また若干の合成オリグペプチドは、アグリコバンコマイシンと活性の程度がよく似ているが、特にメチルエ-テル体はより優れた活性を示した.バインデイング実験と抗菌活性の相関性については、今後に残された問題である.また、A環部分に相当するトリペプチドの活性体の合成も前駆体については成功している.現在、関環反応を検討している。
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