本研究では金属人工格子多層膜の自己拡散、不純物拡散、相互拡散、反応拡散を高精度に測定しそれらの拡散機構を解明すると共に、多層膜の電気抵抗を測定し、その伝導機構を明らかにすることを目的とした。今年度は金属多層膜の作製、装置の作製、オ-ジェ分析および電気抵抗の測定を遂行した。 1.金属人工格子多層膜の作製: 電子ビ-ム加熱2元蒸着装置を用いてAl/FeおよびAl/Ti多層膜を作製した。また、スパッタリング法を用いてFe/Cr多層膜を作製した。 2.多層膜における拡散: 超高真空中に取り付けたイオンガスからのArイオンビ-ムによって多層膜拡散試料をスパッタし、そのスパッタ原子を1〜2nmごとに堆積し半導体検出器によりその放射能強度を測定できるイオンビ-ムナノセクショニング装置を今年度で試作、完成した。また、オ-ジェ分析装置の作製も完了し、この装置を用いてFe/Cr多層膜のアニ-ル前後の深さ方向の濃度分布を精度よく測定した結果、350Cで30時間アニ-ルしても濃度分布に大きな変化は認められなかった。従って、Fe/Cr多層膜の拡散係数はバルク試料の相互拡散係数よりもかなり小さいことが判明した。今後、拡散の定量的な測定を行なっていく予定である。 3.電気抵抗の測定: Al/FeおよびA1/Ti多層膜の電気抵抗率した結果、抵抗率は積層周期の減少と共に急激に増大することを見出した。これらの抵抗率は積層周期の逆数とほぼ比例関係にあることを見い出し、このことから伝導電子の果面散乱が電気抵抗に大きく寄与するものと結論づけた。
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