金属超格子において、その弾性定数がバルクの値の数倍も増大する、超弾性効果の発現機構を明らかにするために、計算機シミュレ-ションを行った。まず、分子動力学法によって、様々な積層周期と界面歪を有する準安定な金属超格子の構造を作製する。積層周期方向、薄膜の横手方向のサイズを可変にして構造緩和を行うため、圧力ー温度一定のアルゴリズムを用いた。今回は、界面整合歪の影響に注目してその効果を検討するために、2次元構造について計算した。また、原子間相互作用は、レナ-ド・ジョ-ンズポテンシャルを仮定した。弾性定数は、得られた「試料」の「引っ張り試験」を計算機上で行うことによって求めた。すなわち、緩和後の構造に対して、膜面に垂直方向または横手方向に引っ張り・圧縮の圧力を付加して、系のエネルギ-変化を計算する。 その結果得られる応力ー歪曲線から、超格子構造の弾性定数を求めた。 界面歪5%のコヒ-レントな3層/3層の超格子構造についての結果は、超弾性効果の発現を示していない。界面における整合歪は、一方で引っ張り、他方で圧縮を受けているので、引っ張り・圧縮応力の付加に対して、系のエネルギ-の増分を打ち消すように応答する。したがって、界面における整合歪は、超弾性効果の発現の原因にはなり得ない。他方、膜面に垂直な積層方向の面間隔の歪についても、構造緩和が完全であれば、界面で原子面が膨張していればそれに垂直な方向に面間隔が縮小し、界面が圧縮を受けていれば積層方向の面間隔は膨張する。したがって、積層方向面間歪についても、外部から印加した応力に対して、系のエネルギ-増分への寄与は小さくなる。このように考えると、超弾性効果の発現のためには、試料が何らかの残留応力を持っている事が必要である。実際、横手方向の長さを固定しておいて、同様な計算を行うと、薄膜に圧縮または膨張の歪が残留し、弾性定数に有意な変化が現れた。
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