MnSb/Sb人工格子合金は、互いに結晶構造の異なる非固溶性の積層膜であるため、層間インタ-フェ-スがシャ-プに分離され、理想的なMnSb単原子層が形成される。膜厚0.36〜2MLのMnSbは、5Kではバルクの60〜100%の飽和磁化を持つ一軸異方性(磁化容易軸は蒸着膜に垂直)の強磁性体で、飽和磁化および残留磁化の温度変化から、起常磁性的スピンのゆらぎの存在が示唆されている。 我々は、2次元系に特徴的な磁化のゆらぎをミクロに調べるために、カプトン基板に蒸着したSb(500A)上に成長させた40層の[Mn(1.67A)/Sb(49A)]人工格子膜(MnSbの2MLに相当)にミュオンスピン回転法(μSR)を適用した。人工格子合金にμSR法を適用するには、試料の薄さという困難がある。蒸着でエピタキシ-成長が保証される膜厚は高々1000Aのオ-ダ-であり、40層の[Mn(1.67A/Sb(49A)]に止まるミュオンの割合は僅か1%、さらにMnSb単原子膜に止まる確率は1桁低い。我々は、基板材料としてカプトン(ポリイミド)を用いた場合には、停止ミュオンの約83%が磁気回転比の小さいミュオニウム状態になることに着目して、横磁場回転法により、S/N比を数倍向上させることに成功した。 横回転の振幅は200〜230Kの間で急速に変化し、磁気秩序の形成が確認された。低磁場(20G)で回転しない成分は、秩序化したMnSb層(2ML)の磁気モ-メントによって作られた大きな局所磁場中にあるミュオンからの信号に相当する。この成分の縦緩和率は、100K付近にブロ-ドなピ-クを作り、磁気秩序相での大きなスピンのゆらぎの存在を裏付けている。これらの事実によって、このような薄膜に対してもμSR法が有効な研究手段となることが示された。いろいろな膜厚の試料のスピン搖動の比較を含む、詳細な研究が今後の課題である。
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