メギ科植物Berberidiaceaeの根茎から抽出されるポドフィリンは、200年以上の前から下剤、利胆剤あるいは駆虫剤として用いられていた。1880年に有効成分ポドフィロトキシン(PD)が抽出され、1950年に構造が決定された。1983年に、PDは動物腫瘍細胞の増殖を阻害することが見出されて、癌の治療薬として注目された。現在PDの半合成誘導体VPー16(エトポシド)やVー26(テニポシド)が臨床的に用いられるに致っている。VPー16などの抗癌作用の機構には、DNAトポイソメラ-ゼIIが薬剤により再結合作用が阻害され、安定な複合体を生成し、それとDNA値が相互作用をすると考えられている。VPー16などは、部分構造としてシリンガ酸を含む特異な構造をしている。シリンガ酸は、還元性のフェノ-ル性水酸基を有し、また生体内金属イオンと錯体を形成するため、配位子と金属イオンとの酸化還元的錯生成反応の結果、酸素分子を活性化すると考えられる。こうして生成された活性酸素種はDNA分子を攻撃し、切断すると推定される。PD関連化合物の抗腫瘍活性の機構を、生物無機化学的観点から解明するこを目的として、初年度は基本的研究を行い、次の成果を得た。 大腸菌由来のsupercoiled DNAを用い、PD関連化合物と金属イオン共存下、pH7.8の条件でDNA切断反応を検討したところ、Fe^<3+>とCu^<2+>存在下で強い活性が見出された。またPDー金属イオン系に紫外線を照射すると、完全な切断活性が観測された。以上の反応の機構を明らかにするため、錯形成反応、酸素吸収法、ESRースピントラップ法、あるいは活性酸素のスカベンジャ-等を用いて反応を詳細に検討した結果、錯形成反応とそれに続く酸素分子の活性化によるヒドロキシラジカル(・OH)の生成が明らかとなり、DNA切断活性の原因は、・OHによるものと推定し、新しい機構を提案した。
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