研究概要 |
DNAを特異的に切断する分子はこれまでにもいくつか合成されているが、反応の選択性や効率の点で満足できるものとはなっていない。その理由の1つは、DNAのデオキシリボ-スの水素引き抜きから開始されるDNA切断機構が断片的にしか理解されていないため、切断分子のひきおこしている反応を評価できなかったことによる。特に1',2',3'位の水素引き抜きにより起こるDNA切断反応については、機構やその生成物については不明である。そこで修飾オリゴヌクレオチドを大量合成し光照射や抗生物質の基質として用いその切断機構について検討した。5ーハロウラシル類はDNA中にチミンの代わりにとりこまれ、光照射によりウラシル5位にラジカルを生じるが、その反応はほとんど理解されていない。DNA中に生成するラジカルがデオキシリボ-ス骨格より水素を引き抜くものと考え、5ーブロモウラシル( ^<Br>U)及び5ーヨ-ドウラシル( ^IU)を含む修飾短鎖DNAを大量に化学合成し、その光反応性を検討した。その結果、A ^<Br>U配列では2本鎖DNA中において、1'位の酸化が効率よく起こること、また^IUにおいては配列に関係なく2'位の反応も起こることが発見された。これらの結果は1'位、2'位の水素引き抜きから開始されるDNA切断機構を考える上で重要であるばかりか、5ハロウラシル類の引きおこす反応として、光生物学的にも注目される。 4',5'位の水素引きぬき反応については、抗がん剤ブレオマイシン(BLM)及びネオカルチノスタチンによるDNA切断反応を同様に有機化学的に分子レベルで詳細に検討し、その反応機構、生成物の同定、それらの定量法を開発することに成功した。またイノシン及び2ーアミノアデニンを含む修飾短鎖DNAを種々合成し、BLM及びNCSがいかにDNA塩基配列を認識し、切断しているかを検討した。その結果NCSでは新しい認識モデルを提案すること可能となり、コンピュ-タ-モデルを用いて、その妥当性と視覚化に成功した。
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