水は本来ガラス化しにくい物質であるが多価アルコ-ル添加により容易にガラス化する。本研究では、シミュレ-ションによりこの事実を再現できるかどうかを調べるとともに、そこでの水の構造や多価アルコ-ルの内部回転が果たしている役割を明らかにする事を目的とした。具体的系としてエチレングリコ-ルを選び、その無限希釈水容液について分子動力学シミュレ-ションを行い、以下の知見が得られた。尚、アルコ-ルは分子内の伸縮・変角振動を凍結し、分子内配座を固定した剛体モデル(ゴ-シュ、分子内水素結合無しゴ-シュ、トランス)及び分子内回転の自由を許した可動モデルを採用した。分子内2面角は、外に関してはエタノ-ル、内に関してはエチレングリ-コ-ルから構成した。 1。剛体モデルでは、分子内水素結合無しゴ-シュモデルの系が最も安定である。その原因は水とアルコ-ルの分子間水素結合にある。 2。可動モデルでは、大部分の時間において分子内水素結合の有るゴ-シュモデルの配座で存在する。 3。アルコ-ルの水和殻内の水の拡散係数を求めた。可動モデルでは分子内運動により、水分子の拡散は早い。 4。アルコ-ルの水和殻内での水分子の回転緩和時間を求めた。剛体モデルでは分子間水素結合の強い系ほど回転緩和時間が短くなる。一方、可動モデルでは、分子内運動の寄与により、剛体モデルよりも短い。 5。エチレングリコ-ル水溶液を特徴づけるのは大きな粘度である。今回の各モデルでは実測値の半分程度であり、さらに最も適切なモデルである筈の可動モデルで隔たりが大きい。 以上の結果を踏まえて、分子内二面角ポテンシャルの量子化学計算による組識的な再構成を実行中である。
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