研究概要 |
黒リンの新しい圧力誘起isostructural相転移の可能性を理論的に調べるために、擬ポテンシャルー全エネルギ-法を用いて黒リンの電子構造の圧依存性の計算を行った。計算はnormーconserving擬ポテンシャルとCeperleyーAlderの交換・相関エネルギ-を用い、各原子体積に対して全エネルギ-を最低にするような格子定数a,b,cと内部構造パラメタ-u,vの最適値を定めることに依って、全エネルギ-と格子定数及び内部構造パラメタ-を原子体積の関数として求めた。内部構造パラメタ-の決定にはHellmannーFeynman力の計算、格子定数の決定にはstressの計算を併用して計算精度を高めた。平面波のcutoff energyとして16と23.04ryの二つの値に対して計算したが、前者の場合には複数の偽準安定構造が出現し、近似として不十分であることが分かった。このことは黒リンの様にやや複雑な系に対してこの種の計算を行う場合に近似の程度に注意する必要があることを示すものである。計算結果から求められる基底状態に関する量(平衡体積、格子定数、凝集エネルギ-、体積弾性率とその圧依存性)の実験値との一致は概ね良好である。問題の格子定数vs原子体積の計算結果の実験との一致は良好で、実験で観測されたisostructural相転移によると思われる異常も良く再現されている。圧力vs原子体積の関係の計算結果も問題の相転移と思われる点で折れ曲がりを示す。以上の結果から黒リンのorthorhombic相の異常が他にあまり例の無いisostructural2次相転移であることが計算から明らかにされた。 この相転移の原因としてはフェルミ面の存在及び隣合った層間の荷電子雲の重なりの2つの効果が考えられる。エネルギ-・ギャップの体積依存性を調べた結果によれば前者では説明が因難である。後者に基ずいた考察は一応計算結果とコンシステントであることが示された。
|