研究概要 |
西部北太平洋の四国海盆(30°N,137°E)、伊豆小笠原海溝北端(34°N,142°E)、日本海溝北端(41°N,146°E)及び赤道太平洋域(0°,175°E)の海域においてセヂメントトラップ実験をし、沈降粒子を採集した。すでに採集されていた南極海に於ける沈降粒子とともに、これらの試料の有機化合物を分析し、以下の結果を得た。 1)有機炭素フラックスは各海域によって変動したが、春季及び秋季に極大値を示し、夏季には極小値を示した。しかし、冬季に於ける有機炭素フラックスは海域による変動が大きく、特に沿岸域では2ー3月に有機炭素フラックスの極大値が観測された。また、南極海では12月から翌2月に至る南半球の夏季に有機炭素フラックスの極大値を示し、年間を通してこれが唯一である点は北部北太平洋と違う。 2)有機炭素フラックスの季節変動過程を明らかにするため、有機物の炭素安定同位対比の測定を行った。その結果、有機炭素フラックスの極大値を示す場合に、沈降粒子有機物δ^<13>Cは高く、その極小値を示す場合には低い事を見出した。植物プランクトンの増殖が盛んな対数期から停止期かけて有機物のδ^<13>Cは高く、その極小値を示す中規模閉鎖系実験の結果を参考にすると、春季及び秋季の有機炭素フラックスの極大は、植物プランクトンのブル-ム現象によるものと結論出来る。この事はまた、沈降粒子有機物のδ^<13>Cが、海洋表層での植物プランクトンの生長動態の解析に利用できる事を示している。 3)沈降粒子脂肪酸分布を決定した。短鎖長不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比を算定した。この値は時間的変動し、その変動は有機炭素フラックス、δ^<13>Cの変動と同調していた。植物プランクトンの培養実験の結果を参考にすると、この変動もまた、海洋表層に於ける植物プランクトンの増殖の指標として重要である事を示唆した。
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