研究概要 |
本研究の目的は、星間での存在が確認もしくは期待される、化学的に不安定な分子種の実験室系での分光を行い、星間空間における検出・同定に必要な基本的情報を得ることにある。測定手段としては、本研究室で開発中のパルス放電超音速ジェットフ-リエ変換マイクロ波分光法を用いた。本年度は、(1)パルス放電ノズルの改良、(2)高速排気系の導入、(3)測定周波数領域の拡大、という改良を行い、不安定分子種の生成効率と、検出感度ならびに測定能率の向上を図った。この結果、本分光法は反応性の極めて高いラジカルやカルベンのような分子種に対しても十分適用可能であることが明らかになった。スペクトルを測定することができたものとしては、SO,環状C_3H,C_4H,C_5H,C_6H,環状C_3H_2,C_3H_2,C_4H_2,C_3N,HCCN,CH_2CN,C_3O,HC_2O,HC_3O,HC_4O,C_2S,C_3sが挙げられる。スペクトルの強度から見積もられる不安定分子種の生成量は、最も多い場合では親分子の数%にものぼる。このような生成効率が極めて高いために、C_3Sについてはnormal種と ^<34>S同位体種の他に自然比(1%)で存在する2つの ^<13>C種のスペクトルも観測することが可能であった。その結果、この分子中でのC=CやC=S原子間距離を初めて実験的に決定することができた。また、HCCNラジカルについては、今回初めて超微細構造分裂を観測し、水素と窒素核スピンに由来する超微細相互作用定数を決定した。これらの情報は、比較的温度の低い分子雲中での検出・同定を試みる場合には不可欠なものである。HC_4Oラジカルについては本研究が分光学的に初めての検出であり、これまでのHC_2OとHC_3Oに対する研究とともに、HC_nOで示される、長い炭素骨格を持つ新しいラジカルの一群の存在を明らかにし、その分子構造や電子状態について情報を与えるものである。
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