本研究は宇宙空間の化学進化における宇宙塵の役割を定量的に評価するための基礎デ-タを蓄積することを目的とする。暗黒星雲に存在する星間塵上の化学反応性のシミュレ-ションをする上での課題は、実験室系の化学反応場を宇宙環境に反映させて行うことである。暗黒星雲は、高エネルギ-の電磁波、荷電粒子に乏しく、10〜20Kの温度環境に原子、分子が存在する宇宙空間であると予想される。このような冷えた環境空間に存在する宇宙塵には種々のガスが塵上に降り積もりマントルを形成する。星間空間における化学進化はこのような星間塵上で進行している可能性が高い。星間塵が関与する化学反応を評価する上で重要なのは、星間塵の第三体としての働き、および固相マントル内のトンネル化学反応を解明することである。従って、シミュレ-ション実験では、極低温の固相内および界面における化学反応を追跡できるシステムを製作する必要がある。今年度は、極低温冷凍機と超高真空排気装置を用いたシミュレ-ション用の装置を試作した。冷温冷凍機のコ-ルドヘッドに対向して、内径0.1mmのステンレスキャピラリ-(1m)を取り付けた。これに試料ガスを流し、高周波あるいは直流の高電圧を印加してキャピラリ-先端にコロナ放電を生起させる。生伐したラジカルをコ-ルドヘッドに低温凍結する。ラジカル種としては、窒素、酸素、炭素ラジカル、マトリックスとしては、窒素、酸素、水、希ガスなどを選ぶ。低温凍結したラジカルを、水素プラズマで処理することにより、水素原子の関与するトンネル拡散とトンネル反応により、アンモニア、メタノ-ル、アルデヒドなどの生伐を観測する。固体内に生伐した分子を昇温脱離マススペクトルにより測定した。水素プラズマを発生させた際に、水素ガスの排気速度が現有の装置では不十分であることが分った。早急に排気系の改良を行う予定である。
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