研究概要 |
離散的な対称性だけを持つ系に近似的な連続的対称性がある場合には,対称性の破れによりウォ-ルとテクスチャ-やステトリング,モノポ-ルなど,位相的欠陥の複合系ができる。この系は,一般に複数のエネルギ-スケ-ルをもつ。 数値シミュレ-ションにより膨張宇宙において生成された位相的欠陥の複合系はネットワ-クを作り,ウォ-ルのセル構造が形成されることが明かになった。ほぼ平坦なウォ-ルからなる大きなセルはゆっくりと形を変えるが、セルが潰れていく過程ではウォ-ルに貯えられていたエネルギ-が運動エネルギ-に転嫁し,セルが小さくなるにしたがって速いタイムスケ-ルの現象となる。セルのサイズが小さくなりウォ-ルの厚さ程度の大きさになると1つのセルは‘スカラ-場天体'とみなせる。 四重極放射公式によって重力波の放出の評価をすると,この‘スカラ-場天体'が放出する重力波の波長は時間とともに短くなり,波長範囲は複合系の2つのエネルギ-スケ-ルによって特徴づけられる。また,重力波放出率は‘スカラ-場天体'の崩壊の最後に激しくなることが明かになった。この重力波源が100Mpc程度離れたところにあれば,地上での重力波の強さは今まで考えられてきた他の源より大きくなる。 しかし実際は,この‘スカラ-場天体'はスカラ-波によってエネルギ-のほとんどを放出しながら潰れていくと考えられるので,崩壊の最終段階の重力波の放出率は過大評価である。また,崩壊の最終段階では,形状が球形に近くなる可能性もあり,この場合は重力波放出は大きく抑制される。これらのことを考慮して重力波放出を評価することが今後の課題となる。
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