研究概要 |
抑制性の伝達物質GABAの阻害剤Bicucullineの作用により、大脳皮質における方位選択性を示すニュ-ロンの出力特性が等方的に変化することが神経生理学的な実験から知られている。これは抑制性のシナプス結合が方位選択性の発現に重要な役割を果していることを意味する。従って我々は、抑制性のシナプス結合の学習によって方位選択性の自己組織化が行なわれる様なモデルを提案する。このモデルは3層からなり第1層は入力層、第2層は介在ニュ-ロン層、第3層は側抑制相互作用のある出力層である。入力層と出力層、入力層と介在ニュ-ロン層は興奮性シナプスで結合しており,介在ニュ-ロンへのシナプスではHebbruleによる学習が行なわれる。介在ニュ-ロンと出力ニュ-ロンは抑制性シナプスで結合している。更に出力層での方位選択性ニュ-ロン群の過剰発火を防ぐために出力層の方位選択性ニュ-ロンの膜電位の上昇に応じて抑制結合を強化する効果を導入した。このモデルで2次元の傾きパタ-ンの入力に対して、2次元の方位選択ニュ-ロン層の自己組織化の問題として学習方程式の平衡解を入力パタ-ンのアンサンブル平均の近似で、コンピュ-タ・シミュレ-ションで求めた。その結果、抑制結合の学習により方位選択性の自己組織化を2次元のニュ-ロン系で実現させることに成功した。 他方、運動方向性の認識についての研究も行なった。猿に対する神経生理学的な実験で、視覚神経を刺激すると一次視覚野のニュ-ロンからある時間遅れを伴ったいくつかの信号が検出される。我々は神経回路の2層モデルにおいて直接的な経路の他に時間遅れを持った別の経路を併せ待つ神経回路網モデルを提案した。種々の方向に運動する棒状のパタ-ンを入力して、この神経回路モデルにHebb学習を行なわせることにより、側抑制相互作用のあるニュ-ロン系で運動方向選択性の自己組織化がおこることを示すことが出来た。
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