本研究では、マカクザル下部側頭回TE野の背側部と腹側部を摘除し、視覚性認知記憶課題とその統制課題に対する摘除効果を調べ、両部位の機能差の有無、及びそれが視覚性認知記憶に特有なものか否かを検討した。 被験体として6頭のマカクザルを用い、各々2頭のサルで、TE野の背側部または腹側部皮質を摘除した。他の2頭のサルは正常統制群被験体として用いた。 視覚性認知記憶課題として、継時的物体弁別課題、同時的物体弁別課題、統制課題としてパタ-ン知覚テスト課題であるパタ-ン弁別課題を用いた。これらの課題を手術前に学習させ、脳皮質摘除後の保持テストにおける成績を調べた。 継時的及び同時的物体弁別学習の保持テストで、全ての摘除ザルが正常ザルよりも成績が悪く、又TE野腹側部摘除ザルは全て、背側部摘除ザルよりも成績が悪かった。視覚性認知記憶の成立にはTE野と海馬の機能的相互作用が重要と考えられている。従って本実験知見はTE野腹側部が背側部に比べ、直接的にも間接的にも海馬とより強い線維結合をもつという解剖学的知見とよく対応する。 パタ-ン弁別の保持テストでも、TE野背側部、腹側部摘除ザルの成績は正常ザルよりも悪く、又、腹側部摘除ザルの成績は背側部摘除ザルの成績よりも悪かった。パタ-ン弁別は上記の物体弁別課題と異なり、その成立には認知記憶ではなく習慣記憶が関与すると考えられている。それ故本知見は習慣記憶に関してもTE野腹側部が背側部よりも重要であることを示唆している。
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