尿素サイクルは有毒なアンモニアを尿素へと変換して解毒する代謝酵素系であり、その5酵素はいずれも肝臓において選択的に高レベルの発現を示す。尿素サイクル酵素遺伝子の肝臓選択的転写調節機構の解明を目的として、本サイクルの第2段および5段の反応を触媒するオルニチントランスカルバミラ-ゼ(OTC)とアルギナ-ゼのラット遺伝子を対象として研究を行なった。トランスジェニックマウスを用いた解析により、OTC遺伝子プロモ-タ-自体はむしろ小腸において肝臓以上の活性を示すことが明らかになった。続いて、培養肝癌細胞への遺伝子導入系を用いて、本遺伝子の5'上流11kbの位置に肝癌細胞特異的なエンハンサ-を検出した。再びトランスジェニックマウスを用いた解析により、このエンハンサ-はプロモ-タ-の組織特異性を転換し、小腸に比べ肝臓においてより高レベルの発現を誘起しうることが明らかになった。一方、ラット組織の核抽出液を用いたinvitro転写系により、アルギナ-ゼ遺伝子プロモ-タ-は肝臓の核抽出液により脳に比べより効率的に転写されることが明らかになった。また同系により、5'上流ー90ないしー51bpの領域に転写促進部位が存在することを示した。OTCプロモ-タ-およびエンハンサ-領域には肝臓、腸管の多量に存在する転写因子であるHNFー4が結合し、肝癌細胞への共導入実験により、この因子はOTCプロモ-タ-に正に作用することが示された。HNFー4結合部位には、氾存性の転写因子であるCOUPーTFも結合可能であり、この因子はOTCプロモ-タ-に負に作用した。また、OTCエンハンサ-およびアルギナ-ゼ・プロモ-タ-にはやはり肝臓に多量に存在する転写因子であるC/EBPに関連した因子が結合する。OTCエンハンサ-活性発現にはHNFー4/COUPーTFおよびC/EBP関連因子の結合部位の両者の存在が必須であり、両因子の協同作用により肝臓特異的活性が発揮される可能性が示唆された。
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