ガングリオシド糖鎖情報の解読と細胞機能の制御

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03255102
• 研究機関: (財)東京都臨床医学総合研究所
• 研究代表者: 永井 克孝 (財)東京都臨床医学総合研究所, 所長 (80072974)
• 研究分担者: 芝 哲夫 蛋白質研究奨励会, ペプチド研究所, 所長 (30028089) ; 飯田 静夫 東京医科歯科大学, 医学部, 教授 (00009987) ; 鈴木 明身 東京都臨床医学総合研究所, 生体膜部, 部長 (70134533) ; 安藤 進 東京都老人総合研究所, 生体膜部, 部長 (30073000) ; 斎藤 政樹 自治医科大学, 医学部, 教授 (60012762)
• キーワード: ガングリオシド / 生理活性 / 神経機能 / 糖鎖遺伝子 / 糖鎖認識プロ-ブ / 化学合成

研究概要

本研究は分子生物学的アプロ-チが従来困難であった生体成分で,かつ生体膜必須成分である複合糖質の一分子群,ガングリオシドにスポットをあて,「ガングリオシド糖鎖の生理活性」,「神経系の機能調節」、「糖鎖遺伝子と発現制御」,「糖鎖認識プロ-ブの開発」,「糖鎖の化学合成」という5班に分かれ,各々の分野の第一人者による総合的研究を展開した。班員間の連絡を密に保ち,また共同研究の芽が出るように総括班としては、年2回の公開シンポジウムと班会議を開催した。さらに班員相互の交流を図る場としてニュ-スレタ-「ガングリオシド」を年4回発行するとともに,手抜手法の相互利用を目的として特集号として平成3年度研究成果報告集を発行した。各班員の努力には目ざましいものがあり,数々の成果を上げることができた。公開シンポジウムは一般参加者を含めて各回とも200人をこえ盛会であった。米国より,糖鎖研究の分野で一線の研究を行っているミシガン大学Lowe教授,スクリプス研究所Paulson教授を招聘し,講演を行うとともに,班員あるいは総括班員と討論し,今後の方向性と現況の反省が行われた。
研究成果としては,ガングリオシドがPI3キナ-ゼ活性の阻害を介してチロシンキナ-ゼPI情報伝達クロスト-クを選択的に阻害することを始めて見い出した。糖脂質糖鎖を選択的に切断するエンドグリコセラミダ-ゼと,この酵素で生きている細胞を処理するのに必要なアクチベ-タ-を発見した。胃炎,胃潰瘍の発症増悪に関与するとして最近注目されている細菌(H.pylori)の受容体が,胃粘膜に多量に存在することが明らになった。コリン作動性ニュ-ロンに特異的なガングリオシドが初めて明かになった。有機合成では,世界のガングリオシド化学合成界をリ-ドしており,GM3ガングリオシド,GD3ガングリオシドの化学合成に成功した。

研究成果

• [文献書誌] Hideri,K.,Itonori,S.,Sanai,Y.,Ohashi,M.,Kasama,K.,Nagai,Y.: "Isolation and characterization of a monosialosylーgangliopentaosyl ceramide from Xenopus Oocyte." J.Biochem.110. 412-416 (1991)
• [文献書誌] Saito,M.,Nojiri,H.,Ogino,H.,Yuo,A.,Ogura,H.Itoh,M.,Tomita,K.,Ogawa,T.Nagai,Y.: "Synthetic sialyl glycolipids(sialoーcholesterol and sialoーdiglyceride)induce granulocytic differentiation of human myelogenous leukemia cell line HLー60." FEBS Lett.271. 85-88 (1990)
• [文献書誌] Ando,S.,Hirabayashi,Y.,Kon,K.,Inagaki,F.,TateS.,Whittaker,V.P.: "A trisialoganglioside containing a sialylα2ー6ーNーacetylーgalactosamine residue is a cholinergicーspecific antigen,Cholー1 ." J.Biochem.111. 287-290 (1992)
• [文献書誌] Nakamura,K.,Suzuki,M.,Taya,C.,Inagaki,F.,Yamakawa,T.,Suzuki,A.: "A sialidaseーsusceptible ganglioside,IV3(NeuGcα2ー8NeuGc)ーGg4Cer,is a major diasialoganglioside in WHT/Ht mouse thymoma and thymocytes." J.Biochem.110. 832-841 (1991)
• [文献書誌] Taki,T.,Nishiwaki,S.,Ishii,K.,Handa,S.: "A simple and specific assay of glycosylーtransferase and glycosidase activities by an enzymeーlinked immunoーsorbent assay method and its application to assay galactosyltranseferase activity in sera from patients with cancer." J.Biochem.107. 493-498 (1990)
• [文献書誌] Yamamoto,T.,Teshima,T.Inami,K. Shiba,T.: "Synthesis of sialic acid through aldol condensation of glucose with oxaloacetic acid." Tetrahedron Lett.33. 325 (1992)