水晶体は水晶体線維細胞の生涯にわたる蓄積により細胞膜に富むことが知られている。白内障は多くの原因によりそれらの細胞間の秩序が乱されることにより透明性が失われると考えられ、我々の研究は水晶体に蓄積する細胞膜の糖脂質の量的、質的変化が上述の変化を引き起こしていると仮定した。事実、ヒトのガングリオシド含量が加齢と白内障の進行程度に依存して増加することを見出した。さらに中性糖脂質画分にはLewis^x(Le^x)ハプテンがCPH(pentahexosyl ceramide)として存在し、ガングリオシドと同様に加齢と白内障程度により増加傾向を示すことを明らかにした。ヒト水晶体の中性糖脂質はグロボ系列とネオラクト系列により成ることも最近判明した。ヒト水晶体でのLe^xの増加は線維細胞間での接着を箱守らの提唱するLe^xーLe^xの相互作用により増大させることが予想され、このLe^xによる接着性の増加が他の白内障にも適応するか否かについて検討した。しかし、老人性白内障のモデルとして知られるEmoryマウス、糖尿病性モデルとされるガラクト-ス負荷ラットではその発現が認められなかった。これらの結果は水晶におけるLe^xハプテンの発現は種特異的であり、中性糖脂質でのLe^xの増加は線維細胞間での接着を増大し結果として白内障を惹起する可能性はヒトに特有な現象と考えられる。Le^xハプテンはヒトのガングリオシドにも存在するが、その発現は加齢や白内障発症にかかわらずほぼ同程度に認められた。またその含量はガングリオシドに数倍多く存在するが、中性糖脂質画分のLe^xが白内障に伴って生合生されるのか、あるいはガングリオシド画分からの脱シアロによるかは今後の問題として明らかにされなければならない。
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