哺乳類脊髄において痛覚の制御にグリシン、GABA作動系ニュ-ロンが関与する可能性を探ることを目的として、以下の研究を行った。 1.グリシン受容体サブユニット蛋白質を認識する抗体の調製 痛み刺激を加えることにより脊髄のグリシン受容体量の変動を蛋白レベルで調べるために、ポリクロ-ン抗体の調製を試みた。我々のグル-プによりクロ-ン化されたグリシン受容体α1サブユニットcDNAの塩基配列から推定される蛋白の一次構造をもとにして、アミノ酸10残基からなるペプチドを合成した。これをKLHと結合したものを抗原にしてウサギに免疫した。数回の追加免疫を行った後、x10000倍の希釈率で抗原を認識する抗体が得られた。ラット脊髄の膜分画を可溶化し、ポリアクリルアミド電気泳動で分離した後、ウエスタンブロットを行った結果、48kDaの位置に存在する蛋白が抗体と反応することを確認した。この蛋白はcDNAクロ-ニングの結果から予測されるサブユニット蛋白質のサイズとよく一致した。この抗体を用いて、免疫組織化学的に受容体蛋白の分布を調べる研究に着手した。 2.In situ hybridizationによる受容体RNAの分布の検討 1.と平行して、クロ-ン化したグリシン受容体cDNAの制限酵素切断片をプロ-ブに用い、in situ hybridization法による脊髄内mRNAの分布を検討した。痛覚と関係する一次知覚ニュ-ロン終末が局在する脊髄後角の辺縁層や膠様質層にもグリシン受容体mRNAが多量に存在することを確認した。侵害刺激を加えた後の受容体mRNAの変動について検討を開始した。
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