イボテン酸注入によりラット線条体を破壊すると、約2ー3週間後に同側黒質網状体部では遅発性神経細胞死を生じる。線条体からは同側黒質に強いGABA性抑制線維が投射している事から、この遅発性神経細胞死はGABA線維の脱落、脱抑制により引起こされる過剰興奮が原因であるとする仮説が提唱されている。この仮説の可否を検証する為、放射能ラベル2デオキシグルコ-ス(2DG)法を用いて脳凍結切片上でのオ-トラジオグラムを作製し、脳の各領域での糖取込能を標識として黒質の興奮性を検討した。線条体破壊後、まだ組織学的変性の認められない3日後には既に同側黒質で2DG取込の上昇を認めた。この上昇は6ー10日後位が最も顕著であり、神経変性の始る12日頃でもまだみられた。しかし4週間後では全く見られず、神経細胞脱落に先行してこの上昇が生じている事が分った。浸透圧ポンプにより、線条体破壊と同時にGABAアゴニストであるムシモ-ルの慢性脳室内投与(連続7日間)を開始すると、破壊6日後にみられる顕著な上昇は殆ど消失した。しかし、最も上昇が顕著な時期(4ー7日)だけのムシモ-ル投与では部分的な抑制に留った。この結果は、線条体破壊後の同側黒質に見られる2DG取込上昇が、脱抑制による過剰興奮に起因する代謝昂進によるだけではなくGABA性線維を介しての何等かの二次的影響が原因である可能性も示唆しており、従来の単純な脱抑制ー過剰興奮仮説に疑問を投げかけた。またこの系のモデル化の試みとして、胎児ラット脳より線条体と黒質を摘出し、コラ-ゲンゲル中で近接培養を行なった結果、両者が互に線維連絡を延し始める時期の材料が最も生存率が良いことが分った。
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