(1)リシス蛋白質の作用の遺伝学的探索:コリシンの分泌放出と同時に高発現で宿主の致死を招くリシス蛋白質の、宿主側の作用点(標的)を知るべく、リシス遺伝子を高発現させても死なない変異株を分離しようと様々試みたが、得られたものはプラスミドのコピ-数を減少させる、あるいは転写効果を落とす変異であり、目的の変異株は得られなかった。標的蛋白質の機能が生育に必須であった可能性があり、現在、リシス遺伝子を持つ多コピ-プラスミドそのものをベクタ-として、遺伝子増幅によりリシス耐性を示す大腸菌野生型遺伝子のショットガンクロ-ニングを試みている。一方、コリシンE2のリシス遺伝子では、致死性がそのシグナルペプチドに規定されるという結果を得ていたが、同一の配列を持つE3リシス遺伝子では、溶菌・致死性が成熟大部分にも規去されているという結果を得た。発現レベルの違いがこの矛盾の原因ではないかと考え、現在検討中である。 (2)リシス遺伝子発現について:リシス遺伝子の発現は、生育速度が遅いほど相対的に高く、またオペロン誘発後の時間にかかわらず一定の菌濃度に達して初めて強い表現型が現れる特異な性質を示す。一方コリシンオペロンは、高発現遺伝子群であるにもかかわらず大腸菌の不適合(希少)コドンを多用しており、特にリシス遺伝子のシグナル部分の(Leu)_4は、存在量が生育速度との負の相関を持つRNA_<Leu>に対応するコドンのみからなっており、希少コドンが生理状態に対するセンサ-になって可能性が考えられた。そこでこの近傍のコドンを適合コドンに変えた変異体を作製したところ、非誘発時の発現が(リ-クにより)上昇したかわりに、誘発時の発現レベルが逆に低下したことを示唆する結果を得た。コリシンの大量合成と溶菌致死という矛盾を回避する、巧妙な新しい発現調節機構の可能性を現在検討中である。
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