酵母のSRH1遺伝子産物は哺乳類のシグナル認識粒子(SRP)54Kサブユニットの相同遺伝子で、GTP結合推定部位をもつ。酵母におけるSRPホモログの機能を明らかにしていくために、SRH1遺伝子のガラクト-ス依存性条件致死変異株を作成し、SRH1遺伝子産物が蛋白質の小胞体膜透過に及ぼす機能を解析した。抑制条件下での変異株では、α接合因子前駆体、インベルタ-ゼ前駆体が細胞質に蓄積しており、これらの蛋白質の小胞体膜透過がin vivoで強く阻害されていることが明らかになった。この結果はSRH1遺伝子産物が少なくとも一部の分泌蛋白質の小胞体膜透過に関与していることを示しており、酵母においても、SRPとSRPレセプタ-による小胞体膜識別・透過系が存在することを強く示唆することを報告した。 遺伝学的手法によりGTPがSRH1遺伝子産物の機能発現に及ぼす役割を明らかにしていくために、ランダムオリゴヌクレオチドを用いる方法(doped mutagenesis)によって、GTP結合推定部位に変異をもつ温度感受性変異株の単離を試みた。約400個のトランスフォ-マントの中から、2個の低温感受性変異株と39個の機能を失った変異株を単離し、低温感受性変異株については変異部位を同定した。現在、これらの変異株の性状解析と変異抑制遺伝子解析を行っている。また、SRH1とその変異遺伝子産物の生化学的解析を行うために、抗体の作成と大量発現、精製系の確立を試みた。SRH1遺伝子産物をT7プロモ-タ-支配下に大腸菌体内で大量発現させたところ、全蛋白の約10%の発現が観察された。発現されたSRH1遺伝子産物を抗原として、抗体を作成した。大腸菌体内で発現されたSRH1遺伝子産物は封入体を形成しており、これを可溶化した後、活性蛋白への再構成を行うことはできなかった。このため、バキュロウイルスー昆虫細胞の発現系を用いて活性SRH1遺伝子産物の発現を試みている。
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