ADA欠損を病因とする重症複合免疫不全症の本邦1症例につき遺伝子解析を行った。患児、父親、母親、健康人コントロ-ルからEBウイルスでトランスフォ-ムしたBリンパ芽球様細胞株(LCL)を樹立して実験材料とした。ADA活性は患児LCLには無く、父及び母LCLではコントロ-ルの半分以下であった。 患児LCLのADAcDNAの1クロ-ンの塩基配列分析から、エキソン7の欠失およびアミノ酸配列に変化のない629GのAへの置換が発見された。 mRNAによるribonuclease protection assayで、患児ADAmRNAはすべてエキソン7を欠失し、父のは正常とエキソン7欠失から成り、母のは正常だけであった。エキソン7欠失は父から遺伝し、母由来の異常遺伝子は本法では検出不可能な不安定mRNAを発現しているか、または発現しないと結論される。 エキソン7欠失の原因となるADA遺伝子異常を調べた。エキソン6からエキソン8にわたるADA遺伝子DNAを増幅し、クロ-ニングして塩基配列を決定した。8中6クロ-ンで5'スプライスサイトの異常、即ちイントロン7の5'側第一塩基GのAへの置換が発見された。他の塩基配列には異常が無かったので、この点突然変異に起因するスプライシング異常によってエキソン7の欠失が起きると結論された。本邦ADA欠損症例での初めての遺伝子分析であり、外国では報告されていない遺伝子異常であった。 本疾患は遺伝子治療の対象として最適と考えられている。これを進めるためには異常ADA遺伝子の解析が不可欠である。
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