平滑筋細胞は増殖に伴って細胞形質を大きく変換する。われわれは増殖期の平滑筋細胞は特異な増殖因子を発現している可能性を検討するため、胎児大動脈cDNAライブラリ-よりPDGF‐A鎖のクロ-ニングを行い、新しいPDGF‐A鎖アイソフオ-ムを同定した。すなわち、ウサギ胎児大動脈cDNAライブラリ-より単離したP1とP3の2種類のcDNAはわずかにカルボキシル末端のコ-ド領域のみで異なり、一遺伝子からの選択的RNAスプライシングにより産生されていた。従来、ヒトPDGF‐Aでは内皮細胞型とグリオ-マ型の2種類が存在することが知られていたが、P3はいずれとも異なり、第三のPDGF‐Aであると推測された。実際、PCRによって検討すると、ヒトグリオ-マ型と同一のアイソフオ-ムも単離され、ウサギ平滑筋では3種類のアイソフオ-ムが存在すると結論された。これら3種類のPDGF‐Aを識別できるcRNAプロ-ブ開発し、その発現をmRNAレベルで検討したところ、胎児期平滑筋やin vitroで対数増殖期にある平滑筋細胞ではPDGF‐A mRNA、とくに内皮細胞型が著明に発現を亢進していた。新たに見いだされた第三のPDGF‐Aの発現も増殖に伴って亢進したが、とりわけアンギオテンシン(10^<-9>M)の添加によって明かに誘導された。 本研究においてわれわれは、新しいアイソフオ-ムを含め、3種類のPDGF‐Aが平滑筋で発現すること、また胎児期の平滑筋や増殖期にある平滑筋細胞は、それらの発現を高めることを明かにした。血管障害では、平滑筋の脱分化によりPDGF‐Aをはじめとする様々な増殖因子の発現が亢進し、周辺の平滑筋細胞を脱分化しつつ、その増殖を進行させるという、一連の連鎖反応が引き起こされるものと考えられる。
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