研究概要 |
血管平滑筋に刺激を加えると始めはミオシン軽鎖LCのリン酸化レベルと張力とはよく対応するが、刺激が持続すると両者の間に乖離が生じる。このことは素直に考えれば、りん酸化説に対する反証の一つと考えられるが、Murphyはlatch bridgeと呼び、平滑筋の特性の一つと見做し、これを説明するためのモデルを提唱した。我々は血管平滑筋の収縮弛緩調節機序を理解するための第一歩としてこのモデルを検証するため、ウサギ大動脈平滑筋スキンドファイバ-を用いて実験を行った。このスキンドファイバ-はpCa7.0附近で張力が出始め、pCa5附近で最大張力に達するCa^<2+>依存性を示す。このような標本をpCa9.7の弛緩溶液R1からpCa4.9の活性化溶液Aに移し、最大張力に達したところで、ATPをADPに置換しかつpHを6.0にしたほかはAと同様の組成の「ADP溶液」で処理した後、pCa7.5の弛緩溶液R2(pHはR1,Aと同様にpH7.0に戻す)に移すと持続的張力が発生し、Ca^<2+>濃度を変えても張力は変化しない。「ADP溶液」のADPの代りにATPの非分解性アナログAMPOPCPやAMP、アデノシンを含む溶液で処理した場合にはCa^<2+>非感受性持続的張力は発生せず、通常にみられるCa^<2+>感受性を示した。ADPを含むpH6.0の酸性溶液で処理することが必須である。このCa^<2+>非感受性持続的張力は50mMピロりん酸により速やかに消失し、ピロりん酸を除去すると速やかに再び張力が回復する。1mMバナジン酸でも同様に抑制されるが、ピロりん酸の場合に比べ、可逆性がやや劣る。これらのことはCa^<2+>非感受性張力発生がactive processにより惹起されることを示唆し、予備的であるが、quick releaseの実験からも支持される。二次元電気泳動でLCの移動度の相違からりん酸化されているLCの割合を評価すると、持続的収縮の時には100%近いりん酸化がみられた。このCa^<2+>非感受性持続的収縮は例えばクモ膜下出血後約1週間して起る血管攣縮などの病理的現象と深く関連するものと考えられ、関与するkinaseの種類、りん酸化されるLCのアミノ酸残基の同定などをはじめとしてその分子機作を詳しく検討する予定である。
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