血管を構成する血管内皮ー平滑筋細胞系の複雑な機能調節機構を探るため、ペプチド性物質を中心とした未知因子の検索を、培養内皮細胞系および培養平滑筋細胞系のセカンドメッセンジャ-の変動や増殖、あるいは単離血管平滑筋およびヒヨコ直腸の収縮、弛緩反応などを指標として行なった。現在、活性画分より順次ペプチドの精製を行ないつつあるため、これらについては次年度の報告に詳しく記したい。 上記の未知因子の検索と並行し、本年度はナトリウム利尿ペプチド・ファミリ-の受容体特異性の決定と、これらの血管内皮ー平滑筋系に及ぼす作用について検討を行った。ナトリウム利尿ペプチド受容体には、膜結合型でグアニル酸シクラ-ゼ構造を細胞内ドメインに含む2種の活性型受容体(GCーA、GCーB)と、機能不明のクリアランス受容体が知られていたが、その特異性は不明確なままであった。ヒトおよびラットGCーA、GCーB受容体cDNAを動物細胞に発現させ、3種ナトリウム利尿ペプチドの結合特異性、cGMP産性能を調べた結果、ヒト、ラットのいずれにおいてもGCーA受容体はANPとBNPに、GCーB受容体はCNPに特異的受容体であることが確認された。また、培養内皮細胞はGCーA受容体を特異的に発現しているのに対して、培養血管平滑筋細胞はGCーB受容体を主に発現し、CNPでより強いcGMP産生が認められた。さらに、培養血管平滑筋細胞では受容体の発現が細胞の培養、増殖状態により大きく変動にすることも示された。これらの事実を反映し、培養血管平滑筋細胞の血清やPDGFによる増殖促進作用はcGMP系を介し抑制されるが、CNPにより最も強力に抑制されることが明らかとなった。以上の結果は、ナトリウム利尿ペプチドが血管の弛緩反応だけではなく、血管平滑筋細胞の増殖抑制などを含めたより広い範囲で、血管機能の調節を行なっていることを示している。
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