研究概要 |
Growth‐Blocking Peptide(GBP)は,カリヤコマユバチによって寄生を受けたアワヨトウ蛾終齢幼虫血清から精製した生理活性ペプチドにあり、このペプチドを未寄生アワヨトウ幼虫へ終齢初期(脱皮日あるいは翌日)に注射した場合、あたかも寄生を受けた終齢幼虫のように発育減退と蛹化遅延を誘起する。この蛹化遅延現象は、寄生蜂にとってその発育を充分に終え、ホストが幼虫形態の内にその柔らかい表皮から脱出するという寄生成立に必要不可欠な寄生制御の一例と考えられる。さて、本研究においては、このGBPの起源、即ち、このペプチドが被寄生アワヨトウ幼虫体内で何から誘導されるものか、主に、遺伝子レベルでの検討を行った。まず,被寄生アワヨトウ終齢幼虫の腸以外の全身からmRNAを抽出し、これに対するcDNAライブラリ-を作成した。このライブラリ-からGBPに対応するオリゴヌクレオチドプロ-グを用いてGBPcDNAのスクリ-ニングを進めた結果、3種類の有望なcDNAのクロ-ニングに成功した。現在、その内の一種類についてDNAシ-クエンスを行い、本当にGBPをコ-ドしているものかを確認しようとしている。さらに、この遺伝子レベルでの検討とは別に、蛋白質レベルでもGBPの起源について調べている。それは、一つの仮説に基づくものである。即ち、このGBPは、終齢以前の若齢幼虫では未寄生血清中にも存在していて蛹化への一連の内分泌的反応の開始を抑えているのではないか、そして、終齢脱皮後、それが幼虫血清から消失して始めて蛹化への一連の変化が起こるのではないかというものである。この仮説は、終齢以前の若齢幼虫血清中に、GBPと類似の生理的効果を持つペプチド成分の存在するという最近の観察によるものであり、現在、多量の若齢幼虫血清を集め、その活性ペプチドの精製を急いでいる状況にある。
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