アワヨトウ幼虫を寄主とする内部寄生蜂のカリヤコマユバチは卵や幼虫の発育にとって都合のいいように寄主の生理状態や行動の制御を行なっている。この制御系で主体を担っているのが産卵時に卵と同時に寄主体内に注入されるカリックスウイルス(polydnavirus)と毒液、さらに寄生蜂卵の漿膜細胞から分化してくるテラトサイトとよばれる細胞である。寄主である鱗翅目幼虫では、精巣は幼虫期に形成される。この精巣の発育も、寄生された幼虫において抑制されていることがわかった。polydnavirusと毒液を人工的に未寄生寄主に注入したところ、寄生現象を再現できた。しかしその作用が直接的に精巣に作用しているのか、他の寄主組織、特に脂肪体に侵入したpolydnavirusが生産する物質によって2次的に発育が抑制されているのかが不明であった。精巣の発育は寄主のecdysteroid titerの上昇と関係があることから遊離腹部に移植して、20ーhydroxyecdysone(20HE)で刺激すると正常な発育に見られるように大きさを増す。そこで終齢0日目の寄主にpolydnavirusと毒液を注入して、6時間後に精巣を取りだし、polydnavirusに感染した精巣を作っておき、全くpolydnavirusの感染を受けていない遊離腹部に移植、20HEで刺激しても、その精巣は大きくならなかった。つまりpolydnavirusと毒液は直接精巣に働き、20HEに対する反応性を失わせていることにより精巣の発達を抑制している事が示唆された。
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