研究課題
近世における神道思想の展開を概観するならば、儒教における陰陽五行思想や仏教の密教思想をもって『書紀』神代巻を解釈した言説からなる神道教説が、国学の登場とともに大きく変容し、新たな神の言説として展開していくという筋道をとる。また幕末にかけては、救済信仰の色彩を強くもった民衆宗教の神の言説が、既成の神道や国学系神道と交錯しながら多様な展開をみせる。以上のような近世における神道思想の展開に対して、本研究グル-プがとろうとする基本的な研究視点は、ただ学説なり教説の形成過程なり体系的特質を明らかにする従来の神道史学的立場とは異なり、「神をめぐる言説(ディスク-ル)」として見ようとする点にある。つまり神をめぐってどのようなことが言われ、あるいは言い出されているのか、従来のどのような言い方が否定され、新たなどのような言い方がされているのか。このような「言説」の視点に立つとき、言説上の差異への注目から、それぞれの神道教説の特質があらためて洗い出されてくることになる。そこから例えば近世初期の儒家神道は、神道に儒教的教説を読み入れたという消極的な理解にとどまらずに、宋学的性理論をもって神が人の心との連関で新たにどのように言い出されたのかという観点からその言説上の特質が積極的に把握されることになる。また崎門派の垂加神道も、儒家特有の「鬼神論」的言説との関連から見ることによって、儒家の宗教的言説としてとらえることが可能になる。さらに国学的な言説の革新性はどこにあるのか、このことも「神典のまま」なる神の言説という宣長の主張の理解によって明らかにされよう。また民衆宗教における神々が、国学的な神の言説とどのように交錯しているということの分析を通じて、その宗教的言説の特質も明らかにされよう。以上のような視点からの分析を通じて、来年度にその成果をまとめていくつもりである。
すべて その他
すべて 文献書誌 (6件)