研究課題
本年度は総合研究初年度であり、各自が総合研究の全体的テ-マの下に個別的研究や資料の収集、調査を進める傍、参加者合同の研究会における研究発表や質疑応答を行い、現代というトポスにおける藝術体験の諸相への認識を深め、とりわけその所在と意味について自己を見失いつつある人間のエ-トスとの相関性についての知見を得ることができた。研究発表としては、藤田が所謂ポスト・モダニズムの先駆者とも目されるニ-チュのニヒリズムの継受と変容という視点からエ-トス論を発表し、庄野が音楽を所謂〈藝術〉のトポスから〈デザイン〉のトポスへの移行における〈音への立ちあい〉という観点より捉え直すことを提案した。さらに利光は既にひとつのカテゴリ-として定着している〈コンセプチュアル・ア-ト〉をその原点に立戻りつつ批判的に吟味することによって現代的なインスタレ-ションへの視点を明らかにし、山縣は従来どちらかと言えば副次的とされていた精神医学的見地からの藝術への接近を積極的に試み、また佐々木は既に日常化している翻訳の問題をあらためて劇的世界の表現としての解釈という観点から〈理解〉における基本的な問題へと還元して新たな文化的問題を開示した。何れの発表にも通底していることは、現代を捉えるパラダイムが豊富であるにも拘わらず、その割には我々の当面の課題である藝術もエ-トスもまた現代というトポスも極めて分り難くなっており、また多様な現象が同時に並行しているかに見えるためシュノプシスを得ることが一層因難になってきているということである。それ故逆に我々としては、方法やパラダイムを逆に簡素化し、事態を率直に読む学問的態度へと自らを還元してゆかなくてはならないということである。
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