研究課題
本年度は研究成果の刊行を目標としつつ、引きつづき研究発表や討論を重ねてきた。本年度の研究発表は、「モダニズム体験とエートス」という課題のもとに、浅井健二郎がベンヤミンにもとづきながら〈窓〉の現代的意味について、尼ケ崎彬が「芸術と社会」という表題のもとに、社会における芸術の位置と芸術における社会的要因についてその相互浸透性と相即性を現代というトポスにおいて論じた。また渡辺裕は、現代におけるメディアに着目して、複製芸術の生成過程を、大石昌史は、むしろ逆に非コミュニケーションとしての芸術経験という観点に立って、ハイデガーにおける芸術作品の存在論を発表し、現代芸術へのアクセスの多様さを如実に示す結果となった。また他方もうひとつの重要な課題であるエートス論については、小穴晶子が民族音楽における音楽エートス論を、また瀧一郎がベルクソンにおけるエートス論的芸術の位置づけを、伊藤るみ子が現代の音楽体験におけるエートスの問題性を論じて、おのおのそれなりの問題点を残しながらも興味深いアプローチを呈示した。以上の如く、我々の研究課題は、社会思想ないし社会学的な観点から、また芸術体験そのものへの反省や芸術解秋の存在論という視点から、また民族学的・社会学的なトポスにおけるエートスと表象の相関を見るという立場から、あるいは哲学的なエーティケーの立場からと、まさしく、総合研究にふさわしい多様な角度から考察されることになった。しかし、これらの多様なアプローチにもかかわらず、モダンとポストモダンの関係が依然として問題として残り、作品あるいは芸術的活動が今後いかなる意味で社会に定位されてゆくのかについての見通しは立っていない。現代を捉えるパラダイムの表面上の豊かさにも関わらず、解釈の有機性があらためて問われることとなった。
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