研究課題
総合研究(A)
平成3年度から平成4年度にかけて、従来の研究課題でありまたそれについて総合研究を実施してきた<美的体験>、<関心性>、<ポイエーンス>などとの関連のもとに、学説史的研究を基礎としつつ、多様な方位や位相において現われてきた<美的体験>および<藝術体験>を、とくに<現代>というトポスに着目しつつ検証してきた。研究の方位は、いわゆるポストモダンニズムの原典とも言うべき脱構築の論理の検証と現代的意味を考察するもの、とくに音楽に着目して<音>に回帰し藝術論からデザイン論への転換を試みるもの、造形藝術の局面において所有コンセプチュアル、アートを批判的に吟味し現代的なインスタレーションの意味を明らかにしようとするもの、<理解>そのものの再吟味から新しい相関性への通路を聞こうとするもの、あるいはコミュニケーションを否定することから開かれる藝術作品の存在論の現代的位相を獲得しようとするもの、とりわけエ-トス論の立場から藝術体験そのものや民族音楽(藝術)を論じようとするもの、また総じて社会学的な視点を導入し、複製の問題や社会性を分析しようとするものなど、まことに多彩であり、アプローチの多様さと複雑さがあらためて認識された。この多様性をもっとも緩やかに包括するものは、総体的認識としての世界像をもその展望におく哲学的な<エ-ティケ->と自由なフィロロギ-である。所謂ポストモダンあるいは反近代そして新しい展開を見せつつある今日的状況を見すえるためには、<academic eorrectness>が必須であり、そのための<距離のパトス>と<自由>の意識そして厳格な<方法意識>が必須であることが明確になったことが、最大の収穫であり、また複雑に関連する多様なパラダイムを一義的に整理することなくもちこたえてゆくことが、あらためて確認された。それゆえ、本研究はさらに機会を得て続行することが必要である。