研究課題/領域番号 |
03301009
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神林 恒道 大阪大学, 文学部, 教授 (80089862)
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研究分担者 |
三浦 信一郎 帝塚山学院大学, 文学部, 教授 (50122148)
中村 興二 奈良女子大学, 文学部, 教授 (50000360)
森谷 宇一 大阪大学, 文学部, 教授 (70033181)
横山 弘 奈良女子大学, 文学部, 教授 (00068735)
原田 平作 大阪大学, 教養部, 教授 (50198925)
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キーワード | ロマン主義 / 古典主義 / 自然(観) / 風景画 / 芸術 |
研究概要 |
芸術と自然の関係を明らかにするにあたって、まず風景画の問題を中心に研究をすすめた。西欧風景画の歴史は、西欧的な人間の芸術観を最も端的に表わしているといえる。元来、風景は人間の活動を容れる器でしかなかった。それは、英雄たちの事績を彩る背景であり、賢人たちの精神を具現した住まいであった。人間の内面を反映させるべき対象であって、風景それ自体に独自の価値が見出せるものではなかった。したがって、西欧では風景画は19世紀にいたるまで歴史画の亜種でしかなかった。だが、芸術の潮流が古典主義からロマン主義へと移り行く時点で、新しい芸術としての風景画という意識が徐々に胚胎される。風景画から人間が主役の物語ないし主題が取り除かれるにつれ、絵画芸術としてのその無形式性が露わになり、無対象性が意識され、いわば主題なき音楽といった様相が前面に押し出される。そのとき風景画は、絵画でなくなるのではなく、むしろ価値の逆転を明確に象徴するかのように、人間と自然の交流の感情を内容とする「風景画」として、絵画芸術のなかではじめて明確な場所を確保したのである。自然は「眠れる精神」であり、風景画はあらゆる有機体の生命原理を描いて、一種あらたな宗教画となった。西欧風景画の展開を以上のように捉えることで、本年度のわれわれの研究は加速度を付けて多方面に進展することになった。例えばルソ-の「自然に還れ」という標語は、古典的な時代精神からロマン的なそれへの転換という大きな枠組のなかで大局的に把握しなおされ、その際、北方ゲルマン的な動きが南方ラテンの動向と厳密に区別された。さらに、聖から俗への中心の移動ないし中心の喪失は、むしろ新たな中心の創出、つまり一見俗に見えて実は聖なるものの登場という視点から顧みられるべき、という画期的な発見を導いたのである。新たな知見は、現代芸術の考察に対しても、思いがけぬ実りをもたらしつつある。
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