研究概要 |
ユ-スティ-ニア-ヌス大帝はその法典の発布勅令において、同法典の解釈を禁じ、厳密な遂語訳のみを許したと解されてきた。そのため、ビザンツ法学者によるユ帝法典のギリシャ語訳ないし要約は、ユ帝法と同一内容であり、その集体成であるバシリカ法典および同注釈はユ帝法校訂および理解の基礎と考えられているが、これは極めて問題を含むことが明らかとなった。すなわち、ユ帝は今日の意味での解釈は実際には許しており、また、ギリシャ語への訳出に際し、解釈を含んだ理解に基づく訳出が行なわれていること、従って、バシリカ法典および同注釈に伝えられるギリシャ語法史料は、ユ帝法そのものと考えるのではなく、それを基礎とする1つの別個独立の法として考察すべきものとの立場に至った。 本年度は、バシリカ法典写本中浩潤な注釈を含むCa写本およびP写本によって伝えられる委任法関係(D,17,1,C3,45)に対応のバシリカ法典の詳細な検討により、いくつかの具体的成果を生んだ。その例を若干挙げれば、D、17、1、49における非所有者の委託による自己所有者の売却につき、古典期法学者Marcellusは、真所有者への対抗方法につき言及しないのに、ビザンツ法学者は特定の抗弁を言及し展開していること、委任反対訴権におけるinfamia効を保証求償について認めるD,3,2,6,5(Ulpianus)を、ビザンツ法学者はこれを保証求償の場合に限られた例外と考えようとしており、ユ帝による修正と考えるべきできないと解すべきこと、などである。 なお、流布本写本をフィレンツェ写本校訂に利用しうる範囲およびその限度、さらに、西欧の中世注釈学派の作業方法とビザンツ法学者の作業方法の近似性についても、いくつかの知見を得ることとなった。
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