「平和」の政治思想史的研究

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03301072
• 研究機関: 早稲田大学
• 研究代表者: 藤原 保信 早稲田大学, 政治経済学部 (10063629)
• 研究分担者: 鴨 武彦 東京大学, 法学部, 教授 (20063737) ; 木村 雅昭 京都大学, 法学部, 教授 (30025150) ; 原 彬久 東京国際大学, 教養学部, 教授 (60129096) ; 雀部 幸隆 名古屋大学, 教養部, 教授 (10023590) ; 佐々木 毅 東京大学, 法学部, 教授 (90009803)
• キーワード: 平和 / 戦争 / 政治思想 / 比較思想 / 国家 / 国際政治 / 権力 / 正義

研究概要

本共同研究は、戦後の国際政治が大きな変動期をむかえているいまこそ必要とされる、「平和」というわれわれが目指すべき秩序ある政治社会についての新たな構想を、グロ-バルな視点から、人類の平和を求めた知的な歴史的営為を積極的に継受しながら明らかにしようとするものである。本年度の共同研究を通して明らかにしようとしたのは、第一に、近代ヨ-ロッパにおいて国民国家が形成され、主権国家の体系としての世界秩序が形成される過程で、新たに構築されるべき国民国家の理念とのかかわりで、戦争と平和がどのように概念化されたのか、第二に、そのような中心としてのヨ-ロッパとの接触や対抗の中で、周辺としてのアジアや日本においては、その独自の政治文化に基づきながら、国民国家の確立と平和についてどのような思想が形成されたのか、第三に、そのような平和の思想史的系譜を踏まえながら、今日のわれわれは、国民国家の体系としての国際世界秩序のゆらぎを受け止めながら、どのような平和についての構想をもつことができるのか、という諸点であった。
ところで第一の点とのかかわりでは、「平和」それ自体が西洋政治思想史の主題として見出されることの困難さが確認された。そこに見出されるのは、一方では、冷徹なリアリズムに基づく、単に戦争や暴力の欠如、あるいは力の一時的均衡に過ぎない秩序の受容と、他方では、高次の道徳的目標や普遍的正義の実現と同一視された秩序の名による、戦争や権力的規制の正当化である。そうした主題としての困難さは、第二の課題である非ヨ-ロッパの平和思想においては、近代化とナショナリズムの文脈において倍加されたことも明らかにされた。そうした思想の歴史的意味をさらに解明すると同時に、現代の政治理論がそうした思想伝統からどのような可能性を引き出し得るかを明かにすることが今後の課題である。

研究成果

• [文献書誌] 藤原 保信: "所有権論考" 早稲田政治経済雑誌. 306. 22-41 (1991)
• [文献書誌] 佐藤 正志: "近代国家の形成と政治思想" 藤原保信他編『政治思想史講義』(早稲田大学出版部). 101-137 (1991)
• [文献書誌] 吉岡 知哉: "マルクス的批判ー『ユダヤ人間題によせて』をめぐって" 小野紀明他『モダ-ンとポスト・モダ-ンー政治思想史の再発見1』(木鐸社). 157-188 (1992)
• [文献書誌] 佐々木 武: "the Satute of kill Rennyについてー「アイルランド統治論」その1" 法学志林(法政大学). (1992)
• [文献書誌] 原 彬久: "日米安保体制と冷戦" 季刊・国際政治(日本国際政治学会編). 100. (1992)
• [文献書誌] 原 彬久: "書評・樋渡由美著『戦争政治と日米関係』" 季刊・国際政治(日本国際政治学会編). 96. 190-195 (1991)
• [文献書誌] 木村 雅昭: "市場経済の政治文化ー歴史社会学的考察" 法学論叢. 129ー6. 1-40 (1991)
• [文献書誌] 木村 雅昭: "資本主義・官僚制・権力システム" 『現代民主主義と歴史意識ー勝田吉太郎先生退官記念論集』(ミネルヴァ書房). 333-355 (1991)
• [文献書誌] 木村 雅昭: "取り分社会とレ-アケ-キ型国家ーインドの国家構造" 『ゆらぎの中の国家ー飯島茂先生還歴記念論集』. (1992)
• [文献書誌] 木村 雅昭: "インド国内政治の展開ー多発する粉争の背景" 『現代社会の粉争ー南アジアー』(同文館). (1992)
• [文献書誌] 佐藤 慎一: "フランス革命と中国" 歴史と社会(リブロポ-ト社). 1-61 (1992)
• [文献書誌] 千葉 真: "中世キリスト教の政治思想" 藤原保信他編『政治思想史講義』(早稲田大学出版部). 66-98 (1991)
• [文献書誌] 千葉 真: "アメリカの高等教育と知の現代的位相" 早稲田大学社会科学研究所編『世界各国の高等教育』. シリ-ズ1. 185-220 (1992)
• [文献書誌] 千葉 真: "エコロジ-の政治哲学の形成にむけて" 環境問題((財)環境財団編). 1. 34-61 (1992)
• [文献書誌] 加藤 節: "John Locke on Christianity:A Reconstruction" 成蹊法学. 33号. 1-21 (1991)
• [文献書誌] 加藤 節: "「政治」と「自由」ー政治的自由に関する一考察" 思想. 803号. 64-80 (1991)
• [文献書誌] 加藤 節: "難民問題の歴史的文脈ー擬制としてのナショナル・アイデンティティ" 世界. 10月号. (1991)
• [文献書誌] 加藤 節: "人間と国家ー同時代史のための試論" 世界. 565号. 45-61 (1992)
• [文献書誌] 加藤 節: "政治の究極にあるものー政治学の再生を求めて" 思想. 808号. 1-3 (1991)
• [文献書誌] 加藤 節: "スピノザにおける哲学と政治ー対立から知解へ" 日本スピノザ協会編『スピノザと政治的なるもの』(平凡社). (1992)
• [文献書誌] 飯島 昇藏: "ロ-ルズの善の観念ー『正義の理論』を中心にしてー" 早稲田政治経済雑誌. 309・310. 211-243 (1992)
• [文献書誌] Iijima,Shoozo: "An Interpretation of Spinoza's Ethics:Order,Reason,and Freedom(I)" Waseda Political Studies. XXIII. (1992)
• [文献書誌] 藤原 保信: "二○世紀の政治理論" 岩波書店, 420 (1991)
• [文献書誌] 藤原 保信: "自然観の構造と環境倫理学" 御茶の水書房, 180 (1991)
• [文献書誌] 原 彬久: "日米関係の構図ー安保改定を検証する" 日本放送出版協会, 238 (1991)
• [文献書誌] 鴨 武彦: "ヨ-ロッパ統合" 日本放送出版協会, (1992)