研究概要 |
ウィルス感染による細胞の異常活性化機構の研究は発ガン、自己免疫疾患の解明に極めて重要である。この研究はウィルス疾患に関連する細胞の異常活性化機構を多面的、総合的に研究し基礎、臨床医学へ貢献することを目的としている。今年度得られた研究結果を以下に示す。 1)大腸菌の酸化環元物質であるチオレドキシン(TRX)のヒトホモログであるADFはウィルス疾患で異常高値を示すことが知られている。ADF/TRXのゲノム解析によりADF/TRX遺伝子5'領域にはSP-1以外に既知のregulatory elementがないこと、過酸化水素,-SH基酸化剤によりADF/TRXのプロモーター活性が亢進することが明らかになった。これらの酸化ストレスによるエンハンサー部位はADF/TRX5'上流32bpのシークエンスであることが判明した。このシークエンスは既知のエンハンサー配列を含んでおらず、酸化ストレスによるADF/TRXの発現誘導には新たなcis-acting regulatory elementの存在が示唆された。(淀井) 2)SCIDマウス作製によるATLの疾患モデル作製に成功した。これによりATL細胞のin vivo腫瘍性増殖の解析が可能となった。(内山) 3)HAM患者血清中のIL-1α,β,IL-2,IL-6の検討を行い高値であることを示した。IL-1αとHTLV-1抗体価には正相関を認めている。(納) 4)HTLV-1による核移行転写因子の解析を行い、HTLV-1taxがNF-K Bp50の前駆体であるp105に作用してp50/p65ヘテロダイマーの核内移行に関与することをゲルシフトで証明した。さらにHTLV-1taxに応答するIL-3の5'上流にあるエンハンサー結合タンパクの同定も行い、各種刺激による活性化の検討を行った。(新井) 5)EBV陽性B細胞株をマウスに免疫して得られたモノクローナル抗体5F7が認識する分子量約3万の蛋白は、遺伝子クローニングの結果イムノグリブリンスーパーファミリーに属し、ラットOX477、マウスgp42/Basigin、トリHT7のヒトcouter partである可能性が示唆された。一方5F7抗体はIL-1のIL-1レセプターへの結合を阻害し、T,Bリンパ球の増殖抑制にも関与することが判明した。(若杉) 6)慢性関節リウマチ(RA)とIL-6との関連で研究を進めてきたが、HTLV-1taxによるIL-6野誘導がNF-KBサイトを介した反応であることを証明した。現在、NF-KBサイトに結合する因子の同定を行っており、RAの機序解明につとめている(平野) 7)慢性疲労症候群(CFS)で慢性のウイルス感染の存在が示唆されているが、それとの関連で末梢血のNK活性の低下が見られることが明らかとなった。(内田)
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