研究概要 |
金属の表面磁性については、多くの理論的、実験的な研究がなされているが、その理解は十分ではない。この理由としては、磁気的エネルギ-が電子間エネルギ-に較べて一桁以上少なく正確な取り扱いが難しい点もあるが、実験で対象とする表面が、理論的に扱われている様に理想的な完全表面でない事による比較の難しさに起因する処が大きい。従来の表面分析手法は、理想的な長周期性を持つ表面には、有効に適用できたが、種々の格子欠陥・格子歪み・不純物・相境界の評価には殆ど無力で長距離秩序を持たない欠陥、及び、その近傍での磁気的性質がどの様になっているかを知ることは不可能に近い事であった。1983年にBinning,Rohrerによって発明された走査トンネル顕微鏡(STM)は、実空間で個々の原子一つ一つを解像できる画期的な表面研究法として注目をあび、理学・化学・工学の広い分野で用いられている。STMはその原理上、周期性のない局在した構造・現象に対して極めて有力である。 本年度は、FIーSTMを開発した経験をもとに、高分解能(<10AÅ)の磁気力顕微鏡(FIーMFM)及び、新たな発想に基づく原子間力-スピン偏極トンネル顕微鏡(AFーSPSTM)を搭載できる新たなFIーSTM顕微鏡本体を設計・製作し、更に、探針先端を調製した極微小磁性体に働く力を測定するMFMヘッドを導入した。装置の調整のために、先ず、STMモ-ド予備テストを行い、Si(100)2x1,Si(111)7x7に於るアルカリ金属吸着(特にNaの飽和吸着)、Si(111)7x7の於るSiのホモエピタキシャル成長において新たな知見を得ることに成功した。また、表面原子の凹凸が極めて小さい(〜0.01Å)fcc金属の稠密面であるCu(111)清浄表面及びCl/S吸着構造の観察にも成功して、装置の性能の確認を終了できた。
|