生体が示す生命状態の本質を探求するために、生命状態における細胞間の関係と非生命状態における細胞間の関係に違いを知る必要がある。このためには細胞を破壊することなく生体の細胞を解離し、無秩序な細胞の配列から生体を再生する過程を研究することが重要である。 腔腸動物ヒドラは再生能力が強いため本研究の目的に適合した生物である。本研究では解離した無秩序配列の細胞が細胞二重層を作るまでの第一期と、形態形成を行なう第三期についての研究を行なった。空洞を形成する第二期の研究は今後の課題である。先ず第一期は再生開始以来9時間迄の間に、解離のために内胚葉細胞と外胚葉細胞が無秩序に混合されていたものが、細胞選別の運動のために、外胚葉細胞が細胞集団の外側に、内胚葉細胞が内側に移動する。この運動を理解するために、内胚葉細胞を染色し蛍光顕微鏡と画像処理により統計的に研究した。又、二種細胞が接触する時に、同種間と異種間の三つの界面エネルギーの違いが細胞選別を駆動するモデルのシミュレーションを行ない実験と比較した。第三期においては、均一な球状細胞二重層が形成された後に発現する頭部形成過程における細胞の運動を研究した。解離前に頭部にあった細胞が移動して集合し頭部を形成するのか、それとも細胞の変化により改めて頭部が前歴とは無関係に作られるのかを知るために、解離前の頭部細胞を染色し、解離後に染色された細胞の相関関係の時間変化を求めた。その結果、頭部由来の細胞の相関は生体の再生によって変化せず、新しい構造は頭部由来細胞の移動によるものではないことを明らかにした。 以上、本研究により生体が再生して生命状態を複元する機構に関する新しい知見を得た。
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