本研究の目的は、ミクロとマクロの両方の立場から岩石・鉱物内部の残留歪みを検出し、天然での鉱物の変形過程を理解することである。さらに、この研究方法を、地球科学的な現象とくに岩石の変形を解析することに応用することを目的としている。本年度は、以下に述べるような研究を主に行った。 1。光学異常を示す鉱物の対称性:光学異常示す鉱物、特にエメラルドについて、その対称性の低下について研究を行った。その結果、このエメラルドは、従来知られている六方対称を有しておらず、斜方晶系以下の対称性を示すことが明らかになった。この対称性の低下は、局所的には歪みによるものであるが、全体的には結晶構造そのものの対称性の低下によるものであると考えられる。 2。相変態界面への歪みの影響に関する研究:変成岩の代表的な鉱物である、アルミノ珪酸塩の相変態における歪みの効果を明らかにするために、紅柱石-珪線石相変態界面の性質を研究した。その結果、界面方位は両相の歪みエネルギーを最小にする方向ではなく、界面エネルギーが小さくなる方向であることが解り、歪みエネルギーの効果が余りないことが明らかとなった。 3。高温型石英の内部組織:高温型石英は低温に冷却される際に双晶を発生させるとともに、歪みの解消のためクラックを発生する。このような冷却による組織は、高温時に形成された不均一性に強く依存すると考えられる。このため、本年度は高温型石英の形成時に獲得した不均一性を明らかにするために、ルミネッセンス顕微鏡によって内部構造を観察した。その結果、高温型石英は形成段階で、成長・溶解過程を繰り返していること、さらに、成長は界面がラフニングを起こした状態で起こったことなどが明らかとなった。このような内部不均一性は、相変態過程での局所的な歪み分布に大きく影響すると考えられる。
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