研究概要 |
本研究では,半導体積層薄膜で構成される多重量子障壁(MQB)の電子波反射現象の検証と,それを導入することによる半導体レ-ザの著しい特性改善を目指している。 平成3年度の具体的な研究計画としては,1)多重量子障壁の電子波反射率が最大となるような最適設計を行うこと,2)極薄膜結晶成長が可能な多重量子障壁成長装置を設計・製作すること,3)多重量子障壁を導入したninダイオ-ドの電流・電圧特性の評価から,多重量子障壁の電子波反射量を見積もること,以上の3点である。 最適設計については,電子波反射率についてこれまでにシュレディンガ-方程式を解いた簡単な見積もりを行ってきているが,本年度は半導体レ-ザのバンド構造とフェルミ準位の考察を詳しく行った。その結果,多重量子障壁の効果は半導体材料で決まるヘテロ障壁の大きとに依存するが,それでも多重量子障壁を行いた方がそれを行わないときの2倍程度の電子波反射率を見込めることが明らかになった。第2点目については有機金属気相成長法(MOCVD)を基盤とし,高速ガス切替えが可能なガス制御装置(本科学研究費にて購入)を導入した多重量子障壁成長装置を購入した。現在までに試験運転が終了し,各部の正常動作を確認するとともに通常の半導体レ-ザを製作し,低しこい値発振を得るまで至っている。また,多重量子障壁を導入したninダイオ-ドを実際に製作し,特性測定を行った。その結果,従来型ダイオ-ドに比べて明らかなトンネル電流抑制効果があった。これより,多重量子障壁の電子波反射を初めて明らかな形で実証することができた。 来年度は本年度の成果を踏まえ,多重量子障壁成長装置の高精度膜厚制御技術を確立し,最適設計された多重量子障壁を導入した高性能半導体レ-ザの実現を目指す。
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