研究概要 |
本研究は、海洋における溶存態有機物の化学的構造と特性を知ることを目的としている。このため、有機物の微量分析法を開発し、それを実際の海水試料に適用するものである。 この研究を開始するに当り、まづ東シナ海およびその隣接海域において海水試料を採集し、ワットマンガラス繊維フイタ-によりろ過する。ろ液を試料とし、高温触媒酸化法によって有機物を酸化分解し、発生する二酸化炭素を非分散形赤外分析計によって計測した。また、同一試料を湿式酸化法によって分解し、生ずる二酸化窒素を定量する方法も用いた。両者の測定値の差は水域によって顕著な差を示し、特に東シナ海では、有機物生産の高い沿岸域で低い値を示し、黒潮域で高い値を示した。この事は、有機物生産の高い海域では、植物プランクトンが大量の易分解性の有機物を排出し、逆に外洋域では、有機物分解の進んだ海域で、全てが難分解性の有機物がその大部分を占めているものと考えられる。 この事実を検証するため、中規模閉鎖実験を行ない、植物プランクトンのブルームを人工的に作った(栄養塩添加による)。この際免時的に海水試料を採集し、懸濁粒子を除去後、溶存有機炭素、溶存脂肪酸、溶存アミノ酸・タンパク質,溶存炭水化物の測定を行った。全ての有機物は酸分解,アルカリ分解により、高分子物質を構成成分に分別し、定量した。その結果、植物プランクトンの増殖にともない、光合成が活発化し、植物プランクトン(粒子)有機物濃度の増加とともに、溶存有機物濃度についても顕著な増加を示し、しばしば全有機炭素(溶存)量の60以上になることを認めた。また、これらの溶存有機物は脂質、アミノ酸・タンパク質、炭水化物から成ることも確めている。以上の結果は、海洋の溶存有機物組成は、有光層とそれ以深とは異なり、前者に易分解性の有機物,後者に難分解性の有機物が存在することがわかった。
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