研究概要 |
キラルな錯体の中には、配位子が不斉中心をもつものと、配位子には不斉中心がないが、金属へのキレ-トの作り方によって全体としてキラルになるものとがある。DNAは相互作用のしかたによっては、どちらのタイプのキラリティ-も認識するはずである。一方、アキラルな物質もDNAというキラルな場のもとでは円二色性を誘起される。金属錯体の中にはDNAと、識別の因難な複雑の相互作用をするものがあるが、生理活性の原因は相互作用の詳細が分かって初めて解明されるものである。本研究はDNAと生理性物質との相互作用の研究にキラリティ-の視点を取り入れることで、新たな知見を得ることを目的としている。 まず、アキラルなポルフィリン錯体とDNAとの相互作用を検討した。ポルフィリンから延ばした測鎖の先に変異原物質(GluーPー1=2ーaminoー6ーmethyldipyrido[1,2ーa:3',2'd]imidazole)をつけた化合物とカルボン酸の形のものを対象とした。DNA滴定実験で両化合物とも類似した吸収スペクトル変化を示したが、CDスペクトル変化には差が見られた。末端がカルボン酸のものは、DNAの塩基対に対するモル比rが2.0まではλ max=430nm負のピ-クが観測され、さらにDNAを添加していくと420nmに正,440nmに負のピ-クを示すようになり、スペクトル全体の形はさらにDNAを添加しても大きく変わらない。一方、GluーPー1のついた化合物では、最初から正、負両ピ-クを持ったスペクトルが得られるが、rが0.40以下になると420nm正のピ-クが消減する。また、吸収スペクトルには時間変化が観測されたが、CDスペクトルは不変ということも今回明らかになった。今後、これらの原因を追求していくとともに、インタ-カレ-トしないポルフィリン金属錯体および有機物質をも扱う予定である。また、キラルな配位子を導入した金属錯体の合成とDNAによる不斉識別にも着手する予定である。
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