研究概要 |
我々は水溶性ポルフィリンが、通常の水素結合形成能がないにもかかわらずDNAの塩基配列を認識することを見いだした。前年までの誘起CD・吸収スペクトルによるDNAとの相互作用の解析を進めた。S/N比を改善し、また、ガウス曲線以外の分解法も試みた結果、複雑なDNA-ポルフィリンの系で半定量的に結合モードと塩基配列の選択性が解析できるようになった。 ポルフィリンの高い塩基配列認識に、正の電荷分布が寄与している可能性を調べるため、4-N-methylpyridiniumyl基が1個、tolyl基で置換された化合物を合成し、DNAとの相互作用を調ベた。その結果、他のポルフィリンと同じ高い塩基配列選択性を示し、認識には+3の電荷で十分であることが明かとなった。 また、ポルフィリンのfree base体とDNAとの複合体の分子力場計算を行なった。安定性はside on model(minor groove)>major groove model〜face on model(minor groove)の順で、Coulomb energyよりはnon-bond energyが差に効いていることが示された。 一方、キラルな銅錯体[Cu(o-phen)(X-pro)]Cl・nH_2O(X=D or L,o-phen=1,10-phenanthroline,pro=proline)を合成した。DNA切断活性はD-体の方がL-体よりも10%程度活性が高い。錯体のキラリティーがDNAのキラリティーを認識し、異なった生理活性を示したと考えられる。錯体の単結晶X線構造解析を行なった結果、銅は四角錘型5配位構造をとり、水分子がaxial位に配位している。 キラリティーを鉄の近傍に固定するためにキラルなヒスチジンを第2の機能部位としイミダゾール環が配位するようにデザインしたポルフィリン鉄錯体の合成も行なった。最終化合物の一歩手前まできており、今後、DNAによるキラリティー認識を検討したい。
|