研究の目的 発達脳視覚野においては、視覚求心路の連続電気刺激によってシナプス伝達効率の長期増強あるいは長期抑圧が起こることが知られている。このようなシナプス伝達効率の変化は発達脳の可塑性の基礎過程と考えられるが、本研究はそのシナプス伝達効率の変化が如何なるメカニズムで起きるのか、あるいは入力条件によっては長期増強ではなく長期抑圧が生じるのはなぜなのか、を明らかにするために計画された。 研究成果 1.幼若ワット(生後20-26日)の大脳皮質視覚野から400μm程度の薄切切片標本を作成し、Ca^<12+>螢光指示薬であるrhod-2【chemical formula】Mを細胞内に負荷した。倒立型螢光顕微鏡のステージ上に置き、II/III層の螢光強度の変化から同層の神経細胞内Ca^<2+>の濃度変化を計測した。同時にIV層に置いた刺激電極から10秒に1回テスト刺激を与え、II/III層の誘発フィールド電位を記録した。 2.θバースト状(100Hzで4発のパルス列を5Hzで10回与え、それを10秒間隔で6回繰り返す)のテタヌス刺激をIV層に与えた。ただし、パルス幅0.1ミリ秒の弱い刺激からなる場合と0.2ミリ秒の強い刺激からなる場合と2種のテタヌス刺激を与えた。前者では、テタヌス刺激中Ca^<2+>増加は認められたがII/III層の誘発電位は長期抑圧を示した。ところが、後者では著名なCa^<2+>増加を引き起こした後、長期増強が生じた。 3.テタヌス中のCa^<2+>増加の程度とテタヌス後20分の誘発電位振幅の変化には直接関係がみられた。すなわち、Ca^<2+>増加が強い場合には長期増強、弱い場合には長期抑圧となる傾向が認められた。 まとめ シナプス長期増強が生じるのは高頻度入力によるシナプス後部のCa^<2+>増加が一定閾値以上の場合であり、Ca^<2+>増加がそれ以下であれば長期抑圧が生じ易いことが判明した。
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