研究概要 |
脳血管性痴呆の発症機序を解明し、合わせて研究の成果を予防法、治療法の開発に役立てることを目的としてモデル動物を用いて分子生物学的手法で検討した。前年度までに脳虚血が種々の遺伝子発現を誘導することを報告したが、この遺伝子発現の最も重要な側面は、非致死的脳虚血後に誘導される虚血耐性にあるので、そのメカニズムを中心に検討した。1)、虚血耐性を獲得した砂ネズミ脳では虚血後にHSP70 mRNAおよびHSP70蛋白の誘導が速やかにおこるような促進化現象が観察された(Aoki et al.,1993)。2)、砂ネズミ脳における虚血耐性の獲得が抗HSP70抗体、あるいは、HSP合成阻害剤のquercetinの投与により抑制され、虚血耐性獲得におけるHSP70の関与が示唆された(Nakata et al.,1993)。3)、ラット虚血耐性モデルにおいて虚血耐性を獲得した脳においてHSP27がグリア細胞を中心に合成されることを観察し、neuron-glia interactionを介した保護機構が示唆された(Kato et al.,1994)。4)、脳虚血後のラット海馬CA1ではCu/Zn SODおよびMn SODの免疫染色性が神経細胞死に先立って低下することが観察され、神経細胞死に関与することが示唆された。一方で、反応性グリアはSODを強く発現した(Liu et al.,1993)。5)、虚血後に神経細胞やグリアに発現されるbFGFが砂ネズミの虚血性神経細胞死を防止することを報告した(Nakata et al.,1993)。以上のように、脳虚血後には、神経細胞だけでなくグリア細胞にも種々の遺伝子発現が誘導され、直接的、および、neuron-glia interactionを介した間接的な神経細胞保護修復機構が活性化されると考えられた。
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