心血管系細胞内Caイオン代謝蛋白の細胞工学的および遺伝子工学的解析とその臨床応用

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03404031
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 豊岡 照彦 東京大学, 保健センター, 教授 (00146151)
• 研究分担者: 杉本 恒明 東京大学, 医学部・第二内科, 教授 (60019883) ; 東丸 貴信 東京大学, 医学部・第二内科, 助手 (60180163)
• キーワード: 血管平滑筋 / 細胞増殖 / Caチャンネル / 分化 / 脱分化 / 血小板由来成長因子 / 細胞間非均質性

研究概要

1)血管手滑筋細胞内Ca^<2+>反応の非均質性:筆者らは大動脈から分離した血管平滑筋細胞を初代培養した系により、筋組織全体を用いた系では全く予想されなかった重要な知見をいくつか得た。即ち血管平滑筋細胞はそのCa応答が一様でなく、カフェイン感受性CaチャンネルとIP_3感受性Caチャンネルは平等に全ての細胞に共存するとは限らず、各々のチャンネルの片方のみ反応する事が判明した。この結果は、一般的に各種血管作働性物質で刺激した時に、その反応結果を組織全体を用いて平均を観察しても不十分で、正確には個々の細胞レベルで観測し、その上に立って全体像を再構築する必要が有る事を示している。
2)血管平滑筋細胞内Ca^<2+>反応の細胞周期の依存性:平滑筋細胞内Caチャンネルの機能的発現は、その細胞増殖過程と密接に関連している。増殖開始前の休止期には、電位依存性、カフェイン感受性、IP_3感受性のCaチャンネルは同じ一つの細胞上に共存しているが、細胞分裂が始まり、対数増殖期に入ると、これら3種のCaチャンネルが一過性に発現しなくなった。しかし細胞が培地中で密集状態まで増殖すると接触抑制によって細胞分裂が停止すると、重位依存性とIP_3感受性Caチャンネルは再分化して再び反応するようになるが、カフェイン感受性Caチャンネルは脱分化して再発現しなかった。従って各Caチャンネルの発現は、独立に制御されている事を示す。
3)PDG下によるCaチャンネル発現の調節:上記3種のCaチャンネル発現の細胞分裂時期による可塑性は、平滑筋細胞の成長促進因子の血小板由来成長因子(PDGF)で細胞増殖を亢進させると、試験管内で制御できた。即ちPDGFで各チャンネルの発現は全て抑制され、逆に無血清培地でPDG下の存在しない時は、各チャンネルの発現が促進された。

研究成果

• [文献書誌] Toyoーoka,T.,Aizawa,T.,Suzuki,N.et al.: "Increased plasma level of endothelinー1 and coronary spasm induction in patients with vasospastic angina pectoris." Circulation. 83. 476-483 (1991)
• [文献書誌] Shin,W.S.,Toyoーoka,T.,Masuo,M.et al.,: "Subpopulation of rat vascular smooth muscle cells as determined by calcium release mechanisms from internal stores." Circulation Research. 69. 551-556 (1991)
• [文献書誌] Masuo,M.,Toyoーoka,T.,Shin,W.S.et al.: "Growthーdependent alterations of intracellular Ca^<2+> handling mechanisms of vascular smooth muscle cells." Circulation Research. 69. 1327-1339 (1991)
• [文献書誌] OkaiーMatsuo,Y.,TakanoーOhmuro,H.,Toyoーoka,T.et al.: "A novel myosin heavy chain isoform in vascular smooth muscle." Biochemical and Biophysical Research Communications. 176. 1365-1370 (1991)
• [文献書誌] Suzuki,T.,Toyoーoka,T.,& Sugimoto,T.: "Effect of cell cycle on endothlinーinduced Ca^<2+> mobilization from internal store in vascular smooth muscle cells." Journal of Cardiovascular Pharmacology. 17. S187-S189 (1991)
• [文献書誌] Suzuki,E.,Hirata,Y.,Matsuoka,H.et al.: "Effects of atrial natriurertic peptide on endothelinーinduced vasoconstriction and intracellular calcium mobilization." Journal of Hypertension. 9. 927-934 (1991)