研究概要 |
非ケトーシス型高グリシン血症(NHK)は,新生児期に激烈な中枢神経症状を呈し数日中に死亡するか,生存し得ても重度の脳障害を残す疾患であり,体液中(血液,髄液,尿)グリシン濃度の著明な増量を示す先天代謝異常症である。本症の酵素欠損部位はグリシン開裂酵素であることは1969年我々によって初めて証明された。グリシン開裂酵素は,ヒトでは肝,腎に限局するので,これまで本症の確定診断には肝生檢が必要であった。しかし,該酵素の遺伝子は全ての細胞に存在する故,DNA診断が可能となれば臨床上極めて有用である。本研究は本症のDNA診断を開発する目的で行われた。 グリシン開裂酵素は4つの蛋白(P,H,T,L)から成る複合酵素であるが,本症の大部分がP蛋白の特異的欠損に基づくという我々のこれまでの研究成果からヒトP蛋白cDNAのクローニングを行った。かく得られたヒトP蛋白cDNAをプローブとして本症患児の遺伝子解析を行った結果,点変異,一塩基欠失,三塩基欠失,フレームシフト等色々な変異が病因として見出された。就中,頻度の多いS564I変異(G→T点変異の結果,P蛋白のN末端から564番目のセリンがイソロシンに置換)についてDNA診断法を確立した。PCRプライマーの1塩基を人工的に置換しておくことにより,正常アレルの場合は制限酵素RsaIで消化され,一方,異常アレルの場合にはSabIで消化される。この方法によりS54I変異を微量のDNA檢体(例えば乾燥濃紙血)を用いて筒便に診断し得る。さらに本変異のハイリスク家系について絨毛穿刺による少量の絨毛組織を用いて出生前診断を試み,診断が正確であることが確認された。
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